「医療DXを進めなければならないのは分かっているが、これ以上コストはかけられない。」
「電子カルテの導入で精一杯で、バックオフィス業務まで手が回らない…。」
日々の診療と経営の舵取りに奔走される病院経営者、院長よりこのようなお悩みを伺います。
政府が推進する医療DXの波は、クリニックや病院経営にも押し寄せています。しかし、多くの医療機関において、診療部門の電子カルテや予約システムのIT化は進んでも、勤怠管理、物品購入、稟議申請といった「バックオフィス業務」はいまだに紙とハンコのリレーで行われていることもまだ見受けられます。
今回は、数百万、数千万円の高額な専用システムを導入することなく、多くの医院ですでに導入されている(あるいは安価に導入できる)Google Workspaceを活用して、ほぼ院内リソースだけで業務効率を改善するDX化とその方法をご紹介します。
外部ベンダーに頼らず、自院の手で作り上げる「DIY型DX」の可能性について、具体的に説明します。
医療機関が陥りやすい「パッケージソフト」の罠

なぜ、バックオフィスのDXは後回しにされがちなのでしょうか?最大の要因は「コスト対効果が見えにくいこと」にあります。
「医療用」としての高額システムからの変革期
医療機関向けの勤怠管理システムやグループウェアは多数存在しますが、その多くは「医療用」として通常よりも高くなる傾向があります。また、導入してみると機能が多すぎて使いこなせなかったり(オーバースペック)、逆に自院独自の「半休ルール」や「当直手当の計算式」に対応していなかったりといったミスマッチが多発することがあります。
パッケージソフトのもう一つの悩みは、柔軟性の欠如です。「申請書のフォーマットを少し変えたい」「承認ルートを一人増やしたい」といった些細な変更でも、ベンダーに依頼すればカスタマイズ費用として数万〜数十万円を請求されることも珍しくありません。
結果として、「それなら紙のままの方が早いし安い」という結論に至り、DXが進まない一つの理由なとなります。
解決策は身近にあり。Google Workspaceによる「DIY型」DX

今回、ご紹介するのが、Google Workspaceを活用した内製化(DIY)です。 Gmailやカレンダー、Googleドライブなどはすでに利用されているかもしれませんが、それらは機能のほんの一部に過ぎません。
ここで最も共有したい「切り札」となるツール、それが、AppSheet(アップシート)です。
プログラミング知識ゼロでアプリが作れるAppSheet(アップシート)とは?
「アプリを作るなんて、エンジニアがいなければ無理だろうと思われるかと思いますが、AppSheetは、Googleが提供する「ノーコード(No-Code)開発ツールです。

一言で言えば、Excelやスプレッドシートが使える職員なら、誰でも業務アプリが作れるツールと考えていただければと思います。
仕組みは非常にシンプルです。
- Googleスプレッドシートにデータ(職員名簿や品目リストなど)を入力する。
- AppSheetにそのスプレッドシートを読み込ませる。
- AIが支援しアプリの画面を生成してアプリ制作が行える。
これだけで、スマホやPCで動くアプリの原型が完成します。難しいプログラミングコードを書く必要はありません。「データを整理する力」さえあれば、院内の事務スタッフや看護師長でも、アプリの制作は可能となります。
現場が変わる!具体的な活用事例(Before/After)

では、実際にGoogle WorkspaceとAppSheet(アップシート)を活用することで、院内の風景はどう変わるのか。よくある3つの課題を例に、Before/Afterを見てみましょう。
【ケース1】
勤怠・有給休暇管理の自動化
| Before | After |
|---|---|
| 紙とExcelの二重管理 | スマホや院内タブレットを利用して 10秒で申請・自動計算可に成功 |
| 職員が「有給休暇申請書」を紙で提出し、師長がハンコを押し、事務員がそれをExcelの管理表に手入力する…。 このフローでは、入力ミスが起きやすく、職員本人も「自分の有給があと何日残っているか」を把握するために事務室へ問い合わせる必要がありました。月末の集計作業は事務長の大きな負担。 | AppSheetで「勤怠管理アプリ」を作成。 【職員】 自身のスマホからアプリを開き、希望日を選んで申請ボタンを押すだけ。同時に「現在の有給残日数」も画面で確認可能。 【管理者】 承認作業はスマホなどでワンタップ完了可。 システムデータは自動的にスプレッドシートに蓄積され、残日数の計算も自動で行われます。 事務員による転記作業はゼロになり、月末の残業時間が大幅に削減されます。 |
【ケース2】
物品購入・稟議申請のスピードアップ
| Before | After |
|---|---|
| 院長を探すスタンプラリー | 通知機能で即決裁も可能に |
| 新しい血圧計を買いたい」「学会の参加費を申請したい」。そのたびに紙の稟議書を作成し、師長、事務長、そして院長の決裁印をもらうために院内を探し回る…。院長先生ご自身も、診察の合間に大量の書類に判を押す作業に追われていませんか? | Googleフォーム、あるいはAppSheetを活用します。 【申請者】 必要な物品や金額を入力し、カタログの写真をスマホで撮って添付して送信。 【院長 or 責任者】 Gmailやアプリに通知が届きます。診察の空き時間にスマホを確認し、「承認」ボタンを押すだけ。 【連携】 承認されたデータは自動的に発注リスト(スプレッドシート)に追加され、事務担当者がまとめて発注できます。 決裁までのリードタイムが数日から数分に短縮され、必要な物品がすぐに現場に届くようになります。 |
【ケース3】
院内アンケート・ヒヤリハット報告の活性化
| Before | After |
|---|---|
| 書くのが億劫になる報告書 | QRコードからその場で報告可 |
| インシデントやヒヤリハット報告は、安全管理上極めて重要です。しかし、忙しい業務終了後に紙の報告書を書くのは大きな負担。「大したことないから書かなくていいか」という心理が働き、重要なリスク情報が埋もれてしまいます。また、紙の報告書は集計・分析にも膨大な時間がかかります。 | ナースステーションや各部署に「報告用QRコード」を貼っておきます。 【報告者】 何かあればスマホでQRコードを読み取り、Googleフォームで選択肢を選んで送信。音声入力を使えば文字入力の手間も省けます。 【管理者】 集まったデータはGoogleスプレッドシートに蓄積され、自動的にグラフ化(可視化)されます。「どの病棟で」「どんな種類の」ヒヤリハットが多いか、リアルタイムで分析可能です。 報告のハードルを下げることで情報収集量が増え、医療安全の質が向上します。 |
「クラウドは危険」は誤解?セキュリティへの安心感

ここまでお読みになって、「便利そうだが、患者情報や職員の個人情報をクラウドに置くのは怖い?」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、セキュリティレベルは、「適切な設定をしたGoogle Workspace」は、「鍵のかかっていないキャビネットにある紙の書類」よりも遥かに安全です。また、Googleのインフラの物理的なセキュリティ、通信と保存データ双方の暗号化、高度な脅威対策(AIによるスパム/マルウェア検出など)、そして国際的な規格への準拠(ISO 27001、27017、27018など)など世界的最高水準のセキュリティレベルを常に保持しています。
世界最高水準の堅牢性
紙の書類は、紛失したり、誰かがカバンに入れて持ち出したりしても気づくことができません。一方、Google Workspaceであれば、「誰が」「いつ」「どのデータに」アクセスしたかのログをすべて記録できます。 また、二段階認証(パスワード+スマホ認証)を設定すれば、万が一パスワードが漏れても不正アクセスを防ぐことができます。
もちろん、電子カルテ上の機微な患者個人情報と、バックオフィスの業務データは切り分けて管理する必要がありますが、勤怠や物品管理などのデータに関しては、クラウド化によるメリットと安全性がリスクを大きく上回ります。
結論
【Next Step】まずは「院内のPC好き」に任せてみる

高額な専用システムを導入しなくても、すでに手元にあるGoogle Workspaceを活用すれば、医療DXは今日からでも始められます。
失敗してもコストはゼロ
この「DIY型DX」の最大の強みは、失敗のリスクが極めて低いことです。 もし作ったアプリが使いにくければ、すぐに修正するか、使用をやめれば良いだけです。数百万のシステム契約とは異なり、金銭的なダメージは、ほぼありません。トライ&エラーを繰り返すことで、自院に最適な業務フローが必ず見つかります。
明日からできる第一歩
院長先生、担当者に是非とも今日から行っていただきたい3つのステップです。
- Google Workspaceを契約する(まだの場合)。
アイラボでは、Google Workspaceの契約をご希望の方に初年度10%割引が可能です。14日間の無料トライアルもご利用いただけます。
ご希望の際には、「Google Workspace正規プラン申し込みページ」よりご登録願います。 - 「PCやスマホが好きそうな職員」を1名指名する(事務員、放射線技師、若手の看護師など、職種は問いません)。
- 「まずは『消耗品の発注リスト』をスマホで作れるようにしてみて」と権限を与えて任せる。
外部のコンサルタントやベンダーに丸投げするのではなく、院内のスタッフを「DX人材」として育てる。これこそが、持続可能で筋肉質な病院経営への近道です。
病院でも、コストをかけない「身の丈に合ったDX」を始めてみませんか?
まとめ
医療DXは「買う」時代から、自分たちで「作る」時代へ
本記事では、高額なシステム導入に頼らず、Google Workspaceを活用して院内リソースだけで実現する「身の丈に合った医療DX」についてご説明しました。 重要なポイントは以下の4点です。
- 高額なパッケージソフトだけが正解ではない
- 「医療用」というだけで高額なシステムは、機能過多や柔軟性の欠如という課題があります。
- バックオフィス業務(勤怠、稟議、物品管理など)は、汎用的なクラウドツールで十分に効率化可能です。
- 最強の武器「AppSheet」で現場が変わる
- プログラミング知識がなくても、使い慣れたGoogleスプレッドシートから業務アプリが作れます。
- 「紙とハンコ」の業務をスマホアプリに置き換えることで、転記ミスや移動時間を削減し、リアルタイムな情報共有を実現します。
- 低リスク・高セキュリティな運用が可能
- すでに導入済みのGoogle Workspaceを活用すれば、追加コストはほぼゼロ。失敗しても金銭的ダメージはありません。
- 世界基準の堅牢なセキュリティ基盤と適切な権限設定により、紙での管理よりも紛失・漏洩リスクを低減できます。
- まずは「人」への投資から始める
- 外部ベンダーに丸投げするのではなく、院内の「PCが得意な職員」をDX担当に指名しましょう。
- 「消耗品発注」など小さな業務からアプリ化を任せ、成功体験を積ませることが、筋肉質な組織作りへの第一歩です。
DXの主役は、システム会社ではなく現場のスタッフです。 まずは月額数百円のコストから、自院の手で業務を変えていく「DIY型DX」に挑戦してみてください。その小さな一歩が、病院経営の未来を大きく変えるはずです。
よくあるご質問
- Q全職員分のタブレットやスマホを新規購入しなければなりませんか?
- A
いいえ、まずは個人のスマホ活用(BYOD)や既存のPCから始められます。
AppSheetで作成したアプリは、スマホだけでなくPCのブラウザでも動作します。
また、多くの医療機関では、セキュリティガイドラインを定めた上で、職員個人のスマホからの申請を許可するケースが増えています。勤怠打刻や休暇申請などは個人のスマホから、物品発注はナースステーションの共用PCから、といったように、既存の端末を使い分けることで初期投資を抑えられます。
- Q複雑なマクロが組まれた「秘伝のExcel」がありますが、これもアプリ化できますか?
- A
マクロをそのまま移行するのではなく、「業務フロー」を移行するチャンスです。
AppSheetはExcelのマクロ(VBA)をそのまま動かすものではありません。「誰が・いつ・何を入力したか」というデータ管理に特化しています。
複雑怪奇になったマクロ入りのExcelは、メンテナンスが難しく「作った本人しか直せない」リスクの温床です。アプリ化を機に、「本当に必要な入力項目は何か」「自動化すべき計算は何か」を整理し、シンプルな仕組みに作り変える(断捨離する)ことをお勧めします。
- Q看護師の複雑な「シフト作成(勤務表作成)」も自動化できますか?
- A
「作成」の自動化は専用ソフトに任せ、「収集・共有」のみGoogleで行うのが正解です。 夜勤や能力バランスを考慮したシフトの自動生成は非常に高度な計算が必要で、AppSheetのみで実装するのはハードルが高いです。 DXのコツは適材適所です。
- 希望休の収集: Googleフォームで集める(紙の転記作業をなくす)。
- シフト作成: 既存の専用ソフトやExcelで行う。
- 決定シフトの共有: PDF化してGoogleドライブやチャットで共有する(配布の手間をなくす)。 このように、前後の工程だけをデジタル化するだけでも、師長さんの負担は劇的に減ります。
- Q担当者に指名した職員が、途中で投げ出してしまわないか心配です。学習方法はありますか?
- A
ネット上に日本語のノウハウが豊富にあり、独学しやすい環境です。
AppSheetは世界中で使われているツールであり、日本国内にも多くのユーザーコミュニティがあります。YouTubeの解説動画、QiitaやZennなどの技術ブログ、SNSでの情報交換など、無料で学べる教材が豊富に揃っています。
分厚い説明書を渡すよりも、「AppSheet 在庫管理 作り方」で検索してみて。と伝える方が、現代のスタッフにとっては近道であることが多いです。
- QDX担当として頑張ってくれた職員を、どう評価してあげれば良いですか?
- A
「アプリを作ったこと」ではなく「削減できた時間」を評価してください。 単に「新しいものを作った」ことへの評価だけでは、不要なアプリを量産してしまう恐れがあります。 「勤怠集計の作業が月10時間減った」「発注ミスがゼロになった」といった具体的な成果に対して、ボーナス査定への加点や、人事評価でのプラス評価を明示してあげてください。それが本人だけでなく、周囲の職員への「DXに参加するメリット」の周知にも繋がります。
動画での紹介
GoogleのAppSheet(アップシート)を画面と共に初心者にも分かりやすくご紹介している動画です。病院・クリニックでPC好きな担当者を決める際にも、下記の動画を一緒にみながら興味感を確認することもおすすめします。小さな一歩が、今後の病院・クリニックの大きな石杖となるチャンスでもあります。どうぞご覧ください。

