「指示したことしかやらない」「自分で考えて動いてくれない」 多くの病院・クリニック経営者や院長先生が、スタッフの主体性についてこのような悩みを抱えているのではないでしょうか。

スタッフが指示待ちの状態では、業務効率が上がらないだけでなく、院内の雰囲気も停滞し、ひいては患者満足度の低下にもつながりかねません。しかし、これはスタッフ個人の資質だけの問題ではないのです。適切な教育手順と環境づくりによって、スタッフは驚くほど主体的に動き出す「自走型スタッフ」へと成長します。

今回は、指示待ちスタッフが生まれる原因を解き明かし、明日から実践できる自走型スタッフへの具体的な育成ステップ、そして彼らが活躍できる環境づくりまでを、最新の情報を交えながら詳しく説明します。

なぜ「指示待ちスタッフ」は生まれてしまうのか?

なぜ「指示待ちスタッフ」は生まれてしまうのか?

多くの院長先生は、「最近の若いスタッフは主体性がない」と嘆きますが、実はその原因の多くはクリニック側の教育体制や環境にあります。スタッフが自ら考えて動けなくなる主な原因は3つ考えられます

一つ目は、「仕事の目的や背景」が共有されていないことです。例えば、「この書類を整理しておいて」と作業だけを指示されたスタッフは、その作業の重要性や、クリニック全体の業務の中でどのような意味を持つのかを理解できません。結果として、指示された範囲のことだけをこなす「作業者」になってしまいます。

二つ目は、失敗を過度に恐れる文化です。特に医療現場ではミスが許されないというプレッシャーが常にありますが、新しいことに挑戦した際の小さな失敗まで厳しく叱責される環境では、スタッフは萎縮してしまいます。「言われたことだけをやっていれば怒られない」という思考に陥り、主体的な行動を避けるようになります。

三つ目は、院長や先輩スタッフが「教える」のではなく「答えを与える」コミュニケーションを取り続けているケースです。スタッフが疑問を持った際に、すぐに正解を教えるのではなく、まずは本人に考えさせる時間を与えることが、思考力を育む上で非常に重要です。

すべての土台となる「クリニックの理念」をどう浸透させるか?

すべての土台となる「クリニックの理念」をどう浸透させるか?

自走型スタッフを育成する上で、最も根幹となるのが「理念の浸透」です。スタッフは、クリニックが何を目指し、社会や患者にどのように貢献したいのかという理念を理解・共感することで、初めて自分の仕事に意義を見出し、主体的に動けるようになります。

理念を浸透させるためには、まず院長先生自身の言葉で、情熱を持って語り続けることが不可欠です。朝礼やミーティングの場で繰り返し伝える、院内の目立つ場所に理念を掲示するなど、日常的に理念に触れる機会を作りましょう。

さらに重要なのは、日々の業務と理念を結びつけて伝えることです。例えば、受付スタッフに「患者さんを名前でお呼びする」という業務を教える際に、ただやり方を教えるだけでなく、「私たちのクリニックは『患者さん一人ひとりに寄り添う医療』を理念に掲げています。だからこそ、マニュアル通りの対応ではなく、まずはお名前をしっかりお呼びして、心からの歓迎の気持ちを伝えることが大切なのです。」というように、理念に基づいた「なぜ」をセットで説明します。この積み重ねが、スタッフの意識を「作業」から「理念の実現」へと変えていきます。

自走を促すための具体的な教育ステップとは?

自走を促すための具体的な教育ステップとは?

理念という土台ができたら、次は具体的な教育ステップに進みます。
以下の5つのステップを意識的に実践することで、教育の効果は格段に上がります。

  1. 目的と期待値を伝える
    まず、業務の目的、つまり「なぜこの仕事が必要なのか」を伝えます。そして、「この仕事を通して、あなたにこうなってほしい」という具体的な期待値(ゴール)を明確に示します。
  2. やり方を教える(ティーチング)
    次に、具体的な業務手順をマニュアルなどを用いて分かりやすく教えます。ここでは、まずは標準的なやり方を正確にインプットさせることが目的です。
  3. やらせてみる(実践)
    教えた内容を、実際にスタッフ一人でやらせてみます。この段階では、すぐ隣で見守り、困ったときにはサポートできる体制を整えておくと、スタッフも安心して取り組めます。
  4. フィードバックする(承認と改善)
    実践した内容に対して、すぐにフィードバックを行います。重要なのは、まず「できたこと」「良かったこと」を具体的に褒めて承認することです。その上で、「次はこうするともっと良くなる」という改善点を伝えます。否定から入るのではなく、肯定的なフィードバックを心がけましょう。
  5. 振り返りと改善提案を促す
    業務に慣れてきたら、「この仕事、やってみてどうだった?」「もっと効率的にできる方法はないかな?」と問いかけ、スタッフ自身に考えさせ、意見を求めるようにします。スタッフからの改善提案は積極的に採用し、「あなたの意見がクリニックを良くした」という成功体験を積ませることが、さらなる主体性を引き出します。

スタッフが自ら考え、挑戦できる「環境」をどう作るか?

スタッフが自ら考え、挑戦できる「環境」をどう作るか?

どんなに素晴らしい教育を行っても、スタッフが挑戦を恐れるような環境では、主体性は育ちません。自走型スタッフがその能力を最大限に発揮するためには、「心理的安全性」の高い職場環境が不可欠です。

心理的安全性とは、「この組織の中では、自分の意見を言ったり、挑戦して失敗したりしても、罰せられたり人間関係が悪くなったりすることはない」とメンバー全員が感じられる状態を指します。

この環境を作るために、院長先生やリーダー層は、スタッフからの意見や提案を歓迎する姿勢を明確に示し、どんな小さなアイデアでも真摯に耳を傾けることが大切です。また、スタッフが挑戦した結果、失敗してしまったとしても、その挑戦した姿勢そのものを評価し、責めるのではなく「良い経験になったね。次はどうすれば成功できるか一緒に考えよう」とサポートする文化を醸成していく必要があります。もちろん、医療安全に関わる重大なミスは別ですが、業務改善などにおける前向きな失敗は、むしろ組織の成長の糧であると捉えることが重要です。

まとめ

指示待ちスタッフを自走型スタッフへと育てることは、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、それは決して不可能ではなく、ましてやスタッフ個人の資質の問題でもありません。

まず、クリニックの存在意義である「理念」をスタッフと深く共有し、すべての業務がその理念に繋がっていることを伝え続けること。そして、明確な教育ステップに沿って丁寧に指導し、良かった点を具体的に褒めて承認すること。さらに、スタッフが安心して意見を言え、失敗を恐れずに挑戦できる「心理的安全性」の高い環境を整えること。

これらの取り組みは、時間と労力がかかる地道なプロセスです。しかし、スタッフ一人ひとりが主体的に輝き始める時、クリニックはより強固なチームとなり、生産性の向上はもちろん、患者からも選ばれ続ける、真に価値のある医療機関へと成長していくことができるはずです。

よくあるご質問

Q
日々の業務が忙しくて、教育に十分な時間をかけられません。どうすればいいですか?
Q
新しいやり方を提案しても、一部のベテランスタッフが「今までのやり方で問題ない」と抵抗します。どう対応すれば良いですか?
Q
教育しても、なかなか主体性が育たないスタッフがいます。どのように関われば良いでしょうか?
Q
スタッフに権限移譲をしたいのですが、どこまで任せて良いか判断が難しいです。
Q
失敗を許容する文化は、医療ミスにつながるのではないかと不安です。

動画での紹介

今回の動画は、自走人材の育たない職場の共通点から自走人材の育成方法まで実績と経験豊富なアチーブメント株式会社 青木 仁志代表の動画をご紹介します。病院・クリニックのスタッフ教育にも共感を得る内容ですのでご覧ください。