〜オンライン診療は「コスト」ではなく「戦略的投資」〜
眼科診療は精密機器による検査を要するため、オンライン診療の適用範囲に制約が存在します。
しかし、この制約を逆手に取り、「対面診療の効率を最大限に高めるための補完的手段」としてオンライン診療を位置づけることで、経営上の顕著な利点が生じます。
今回は、遠隔地居住者や高齢患者の定期診療継続、および新たな顧客層の獲得という導入目的を達成し、収益を最大化するための多角的戦略を分析し提示いたします。
1.経営目標(KGI/KPI)の設定
何を最大化するのか?

収益最大化を具現化するためには、オンライン診療が貢献する具体的な業績指標を厳密に定義する必要があります。
| 指標 | 定義・目標 | オンライン診療による貢献 |
|---|---|---|
| 【KGI】収益 | 年間総収益の 10%の増加を目標とする | 診療時間外における収益機会の創出、LTV(顧客生涯価値)の向上。 |
| 【KPI1】リテンション率 | 遠隔地および高齢患者の年間定期受診継続率が85%以上の水準を維持する。 | 患者の移動に伴う負担を軽減し、離脱を最小限に抑制する。 |
| 【KPI2】新規患者獲得効率 | オンライン経由の新規患者を総患者数の15%達成する。 | 診療圏外へのリーチ拡大、院内待ち時間の解消による選定優位性の確立。 |
| 【KPI3】 診療効率 | 医師一人あたりの単位時間当たりの対面診療数を10%向上させる。 | 再診および軽度相談をオンラインに振り分け、対面診療のための時間を創出する。 |
2.収益拡大戦略(攻め)
LTV向上と診療圏の拡大

眼科領域におけるオンライン診療の最大の収益機会は、「既存患者のLTV(顧客生涯価値(Life Time Value))化」および「地理的診療圏外の層の獲得」にあります。
2.1. 既存患者のリテンション強化と単価最適化
| 戦略 | 詳細 | 利益への影響 |
|---|---|---|
| 慢性期疾患のモニタリング | 緑内障、糖尿病網膜症、ドライアイなどの安定期の再診をオンラインに移行する。これにより、遠方・外出困難な患者の離脱を防ぎ、継続率(LTV)を向上させる。 | 収益基盤の安定化。離脱に伴う機会損失コストの削減。 |
| 術後フォローアップ | 白内障手術などの術後、経過が安定している段階での軽度な相談・問診をオンラインにて実施する。患者負担の軽減と安心感の提供に寄与する。 | 患者満足度の向上を通じた紹介獲得。手厚い術後フォロー体制の確立(競合優位性の強化)。 定期的な満足度調査の実施が重要。 |
| 自費診療への誘導 | オンライン診療を活用し、眼鏡・コンタクトレンズの処方更新や、自由診療(美容、栄養指導など)の初回カウンセリングを実施する。オンライン診療の低い診療報酬を、高単価の自費診療で補完できるように調整。 | 診療単価(ARPU)の最大化。 |
2.2. 新規患者層の戦略的獲得
オンライン診療の導入は、地理的な診療圏の境界を解消する。
- 多忙なビジネスパーソン層の取り込み
平常の診療時間内に来院が困難な層に対し、早朝、夜間、または週末の午後など、対面診療では稼働率が低い時間帯にオンライン診療枠を開設し、新たな収益源とする。 - Web集患との連携
クリニックの公式ウェブサイトやGoogleビジネスプロフィールにおいてオンライン診療の利便性を強調する。「自宅で完結する再診」や「待ち時間ゼロ」といった要素を訴求し、デジタルリテラシーの高い若年層を取り込む。
3.コスト効率化戦略(守り)
院内リソースの最適化

オンライン診療の導入効果は、収益増加のみならず、院内業務におけるボトルネックの解消による効率化にも顕在化します。
3.1. DX化による業務効率化と利益最大化
定型的な管理業務をデジタル化・自動化し、スタッフが付加価値の高い業務に集中できる環境を構築する必要があります。
- 受付・電話対応のデジタル化
オンライン予約システムを導入し、電話による予約変更や問い合わせの対応量を削減する。 - 診療情報の電子化
診療情報提供書(紹介状)の作成や、患者への情報伝達プロセスをシステム内で完結させる。これにより、事務スタッフの作業負担が大幅に軽減され、医師が診療に集中できる体制が構築される。
3.2. 医師の時間価値最大化
再診患者がオンライン診療に移行することにより、対面診療の枠組みには、より重症度の高い患者、新規患者、または精密検査を要する患者を優先的に配置することが可能となる。結果として、医師の専門性を最も必要とする症例に時間を割り当てることができ、クリニック全体の生産性が向上する。
4.オペレーションとコンプライアンス体制

眼科特有の診療プロトコルと、関連法規制への厳格な対応が不可欠となります。
4.1. 診療プロトコル(対面との切り分け)の明確化
| 区分 | 目的 | 実施方法とルール |
|---|---|---|
| オンライン診療 | 定期・継続診療、軽度相談 | 安定期のドライアイ、アレルギー性結膜炎の処方、眼鏡・コンタクトレンズの処方更新(直近の対面検査結果に基づく)、術後の軽度問診に限定。 |
| 対面診療 | 初診、精密検査、診断確定 | 視力・眼圧検査、眼底検査、重症・急性疾患の診断、症状の悪化時対応とする。オンライン診療において異常が疑われた際の対面誘導ルールを明確に設定。 |
4.2. システム選定と法規制対応
世界最高水準のセキュリティ基盤と、医療機関に求められるコンプライアンス要件に対応した管理機能を提供します。
- システム選定
既存の電子カルテ連携機能、予約機能、決済機能、高いセキュリティレベル、および医療従事者のITリテラシーを考慮した操作性を重視し選定する。 - 診療報酬の届け出
初診からのオンライン診療に関する規制緩和は進展しているが、施設基準を満たし届け出を行うことで、届け出がない場合に比して高い診療報酬(初診料)が得られるため、収益最大化のため、届け出の実施が必須であると見なされます。
5.リスク管理と今後の展望

5.1. 主要なリスクとその対策
| リスク | 対策 |
|---|---|
| 医療事故リスク | オンライン診療中に診断上の「見逃し」が発生しないよう、対面診療への移行基準を厳格に定める。患者指導において、「急変時は直ちに(対面での)来院または救急要請」を徹底する。 |
| ITトラブルリスク | 安定した通信環境(光回線、予備回線)を整備する。システム障害発生時の代替連絡手段(電話)を確保し、患者への事前周知を徹底する。 |
| 個人情報漏洩リスク | 医療情報システムの安全管理ガイドラインを遵守したシステムを選定し、スタッフに対するセキュリティ教育を定期的に実施する。 |
5.2. 将来への展望
オンライン診療は、AIを活用した遠隔網膜画像診断や、ウェアラブルデバイスからの生体情報連携など、技術革新の恩恵を最も享受しやすい分野の一つです。
オンライン診療を起点としたデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進することで、将来的な遠隔医療機器の導入やAIによる診断支援のための基盤が構築され、貴院の持続的な競争優位性と収益向上に繋がるものと期待されます。
よくあるご質問
- Qオンライン診療の診療報酬は対面診療に比べて低いですが、本当に収益最大化に繋がりますか?
- A
オンライン診療の収益は、対面診療の収益増をサポートする間接的な効果によって実現されます。遠方患者の離脱防止(LTVの安定化)と、軽度な再診をオンラインに移行することによる対面診療枠の生産性向上が、主要な収益貢献要素となります。診療効率の改善により、より多くの収益性の高い対面診療(手術や精密検査)にリソースを集中させることが可能となります。
- Q眼科は精密な検査が必須ですが、オンライン診療で診断の精度をどのように担保するのでしょうか?
- A
オンライン診療は、あくまで「安定期・慢性期の経過観察」に限定すべきであり、診断の担保には限界があります。異常の兆候をわずかでも認めた場合、または症状悪化の報告があった場合は、厳格なプロトコルに基づき直ちに精密な対面診療へ移行させる体制を徹底します。これにより、医療事故リスクを最小化しつつ利便性を提供します。
- Qオンライン診療の導入は、対面診療のための設備投資や人件費などの初期コストに見合うでしょうか?
- A
初期投資は、長期的視点での業務効率化と診療圏の拡大によって回収が図られます。特に再診業務の効率化によって捻出された時間を、白内障手術などの高収益な専門診療に振り分けることで、医師の稼働効率(時間価値)が最大化され、投資対効果(ROI)は劇的に向上します。
- Q新規患者を遠方から効果的に獲得するための具体的なWebマーケティング戦略は何ですか?
- A
従来の地域密着型の訴求に加え、「自宅からの定期フォローアップ」や「待ち時間のない予約体験」など、オンライン診療特有の利便性を強調します。また、対面診療では対応できない早朝や夜間のオンライン診療枠を設定し、多忙なビジネス層や主婦層など、新たな患者層の初期接点とすることが有効です。
- Qシステムを選ぶ際、セキュリティと操作性以外に最も重要視すべき点は何ですか?
- A
最も重要視すべきは、既存の電子カルテシステムとのシームレスな連携です。診療記録の一元化が図れない場合、オンライン診療の導入が逆にスタッフの二重入力作業を招き、業務効率を低下させるリスクがあるため、連携機能の有無と安定性を事前に検証することが必須となります。
