クリニック採用における「認識のズレ」がもたらす経営リスクとは?

日本の医療機関は今、2024年から2025年にかけて過去最多の倒産・休廃業を記録するという未曾有の危機に直面しています。物価高騰や人件費の上昇に対し、公定価格である診療報酬が追いつかない「逆ざや」状態が経営を圧迫しています。

今回は、この厳しい環境を乗り切るための「ハイブリッド経営」についてご紹介いたします。保険診療を軸にしつつ、既存患者への少額な自費診療(肌育注射や花粉症ボトックスなど)を導入して客単価を上げ、同時に最新のAI・DXツールで業務を効率化することで、利益率の向上と「本来の診療への集中」を両立させる具体的な内容を解説します。

なぜ今、保険診療だけの経営が「過去最多の倒産」を招いているのか?

なぜ今、保険診療だけの経営が「過去最多の倒産」を招いているのか?

日本の医療提供体制は、今まさに歴史的な転換点に立たされています。2024年の医療機関の倒産件数は64件と、リーマンショック時を超えて過去最多を更新しました。さらに深刻なのは、倒産に至る前の「休廃業・解散」が年間700件を超えているという事実です。

なぜ、これほどまでに経営が追い詰められているのでしょうか。その理由は、以下の「三重苦」に集約されます。

01

物件費の高騰

電気代、ガス代、医薬品、医療消耗品の価格が軒並み上昇。

02

人件費の急騰

深刻な人手不足により、賃金を上げなければ人材が確保できず、紹介会社への手数料も膨らんでいる。

03

診療報酬の硬直性

一般企業のようにコスト増を価格に転嫁できない。診療報酬の枠による提供。

2026年度の診療報酬改定では、本体が「+3.09%」と30年ぶりの大幅引き上げが決まりましたが、その内訳の多くは「スタッフの賃上げ」に充てることが義務付けられています。つまり、増収しても利益(手残り)が増えない、あるいはマイナスになる構造が続いているのです。

項目2025年の現状と予測
医療機関の倒産件数66件(過去最多更新)
休廃業・解散件数823件(過去最多更新)
主な原因販売不振(患者減)、物価高、人件費高騰
赤字病院の割合医業収支で約7割が赤字

このような状況下で、従来のような「患者数を回して診療報酬で利益を出す。」モデルは限界を迎えています。

既存患者の満足度を上げながら「単価」を改善する仕組みとは?

既存患者の満足度を上げながら「単価」を改善する仕組みとは?

患者の総数が減り、新規獲得コストが高騰する中で、最も効率的に利益を改善する方法は、「既存患者への付加価値提供による単価アップ」を行う仕組みです。

具体的には、保険診療で通院している患者に対し、その悩みをさらに深く解消するための「自費診療メニュー」を少しだけプラスする仕組みを構築します。これにより、新規集客のための広告費をかけずに、利益率の高い収益源の新たな柱を確保できます。

具体的な自費導入メニューの例

  1. 皮膚科・耳鼻科:花粉症ボトックス(点鼻)
    • 内容
      鼻粘膜にボトックスを滴下・塗布し、神経伝達をブロックして鼻水や目のかゆみを抑えます。花粉症の飛散する2月〜4月頃までに2回〜3回行う患者も多くおります。
    • 単価アップ
      約10,000円〜15,000円程度。
    • メリット
      注射ではないため痛みがなく、薬の副作用(眠気)を嫌う患者に喜ばれます。
  2. 皮膚科・内科・眼科:肌育(はだいく)注射・美容点滴
    • 内容
      肌育注射(スキンブースター)として人気の高いプロファイロ、リジュラン(サーモン注射)やボトックスの微量注入、高濃度ビタミンC点滴など。次世代のエイジングケアとしてリスクも少ない肌育は、約6ヶ月〜1年の期間でリピートされる方は多くおります。また、高濃度ビタミンC点滴も併用されることの多い治療の一つです。
    • 単価アップ
      肌育注射で約12,000円〜30,000円、点滴で約8,000円。
    • メリット
      「いつもの診察」のついでに受けられる利便性を提供。健康だけでなく「美」の欲求にも応えます。

既存患者はすでに院長との信頼関係があります。そのため、無理な勧誘ではなく「こういった選択肢もありますよ」という情報提供だけで、高い成約率が見込めます

新規集患コストをかけずに利益率を最大化するには?

新規集患コストをかけずに利益率を最大化するには?

「新しい患者を呼ばなければならない。」という強迫観念は、実は経営を苦しくする要因の一つです。

現在の広告市場では、WEB広告やSNS運用による新規獲得コスト(CPA)は上昇し続けており、1人の新規患者を呼ぶために5,000円〜15,000円かかることも珍しくありません。

一方、既存患者へのアプローチ(LTV:顧客生涯価値の向上)には広告費がかかりません。

利益率の差

項目2025年の現状と予測
新規患者売上12,000円 - 広告費8,000円 = 利益4,000円
既存患者売上12,000円 - 広告費0円 = 利益12,000円

このように、既存患者の単価を少し上げるだけで、利益率は劇的に向上します。

重要なのは、患者を「診察の対象」としてだけでなく、その方の人生(ウェルビーイング)を支えるパートナーとして捉え直すことです。「保険ではここまでですが、自費を組み合わせればもっと快適になります。」という提案は、患者にとっても「選択肢が増える。」というメリットに繋がります。

投資を抑えて「本来の診療」に集中するためのDX活用術とは?

投資を抑えて「本来の診療」に集中するためのDX活用術とは?

「経営改善のために高いシステムを入れましょう。」という提案は、今の時代には合いません。大きな設備投資をするのではなく、「使い慣れたツール」を賢く使うことが重要です。

作業の自動化・効率化を進めることで、院長やスタッフが「パソコンの入力」や「電話対応」に追われる時間を減らし、患者と向き合う本来の時間を取り戻すことが可能となります。

導入しやすいDX・AIツールの活用例

Google Workspaceでオンライン問診と予約メール一元化

Googleフォームを利用してWebでの予約時に問診票も同時入力。受付の入力作業の削減と患者待ち時間の軽減が同時に可能。
院内での問診は、タブレットでの利用をメインに行うことで業務効率化を促進。

LINE公式アカウントで電話対応の工数を大幅削減

予約・リマインドをLINEで行い電話対応の工数を削減。自動応答メッセージを設定し、スタッフの手を止めない。 「花粉症の時期になったので、ボトックス治療のご案内」など、特定の悩みを持つ患者だけに情報を届けることも可能。

自動精算機によるスタッフの現金管理リスクをゼロに

診療代の精算時にスタッフが誤って清算金を間違えるリスクをゼロにします。また、現金管理リスクも自動処理で1日の締めの作業も大幅に削減し残業代などのコストを軽減化。

これらのツールは、月額数千円〜数万円から始められるものが多く、費用対効果(ROI)が非常に高いのが特徴です。

2040年を見据えて、今から準備すべき「選ばれるクリニック」の条件とは?

2040年を見据えて、今から準備すべき「選ばれるクリニック」の条件とは?

本の医療需要は2040年にピークを迎え、その後は急激に減少します。これからの15年間は「選別と淘汰」の時代です。ただ漫然と保険診療を続けているだけでは、地域の再編の波に飲み込まれてしまいます

「選ばれるクリニック」であり続けるためのポイントは以下の通りです。

01

医療DXへの完全対応

国が進める電子カルテ普及率100%、電子処方箋への対応はもはや義務でしょう。これらに対応できないクリニックは、地域連携ネットワークから孤立し、患者からも「古い病院」として敬遠される可能性があります。

02

機能の明確化と専門性

「何でも診る」から、「この悩みならあの先生」という特定の疾患(糖尿病、美と健康、在宅支援など)への特化が必要です。

03

事業承継・M&Aの視野

経営者の高齢化は閉院の最大の理由です。経営が黒字で、DX化が進んでおり、自費収益の柱があるクリニックは、M&A市場でも高く評価されます。将来、誰かに託すにせよ、自分らしく閉院するにせよ、「価値のある組織」にしておくことが不可欠です。

まとめ

2025年、クリニック経営は過去に類を見ない「正念場」を迎えています。しかし、この危機は「古い体質を脱却し、新しい経営モデルへ移行するチャンス」でもあります。

  • 保険診療を維持しつつ、自費診療をハイブリッドで導入する。
  • 新規客ではなく、既存患者の満足度と単価を上げることに注力する。
  • 身近なAI・DXツールを使い倒し、業務のムダを削ぎ落とす。

これらを実践することで、経営の安定だけでなく、院長自身が「本当にやりたかった医療」に集中できる環境が整います。患者に喜ばれ、スタッフが誇りを持って働き、そしてしっかりと利益が出る。そんな持続可能なクリニック経営を、今この瞬間から始めていきましょう。

私たちは、テクノロジーとクリエイティブの力で、クリニックの皆様がこの激動の時代を乗り越えるためのサポートを続けてまいります。

よくあるご質問

Q
保険診療がメインのクリニックで自費を勧めると、患者に嫌がられませんか?
Q
DXツールを入れたいのですが、スタッフが使いこなせるか不安です。
Q
花粉症ボトックスや肌育注射などの製剤は、在庫リスクになりませんか?
Q
2026年度改定で大幅プラスになると聞きましたが、それでも自費は必要ですか?
Q
地方の高齢者が多い地域でも、自費やDXは通用しますか?

引用サイト

  1. 医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)株式会社帝国データバンク
  2. 診療報酬本体3.09%上げ 26年度、インフレ対応で30年ぶり改定率 日本経済新聞