今回は、病院経営者が「経営改善」という明確な目的を持ってオンライン診療を導入・実行するための、戦略的かつ実務的なガイドブックとして記事を作成したいと思います。オンライン診療は、単なる「追加サービス」ではなく、患者の受療行動の根本的な変化と医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流  の中で、病院経営の根幹(集患、業務効率、患者満足度)を再定義する必須戦略として実行する必要があります。   

この記事では、多くの経営者が懸念する「対面診療より低い収益性」という課題に対し、(1) 「業務効率化によるコスト削減」(人工知能(AI) 、事務作業の自動化 )および (2) 「Webマーケティングによる新規患者獲得(商圏拡大)」 という2つの側面から、いかに中長期的な経営改善(ROI)を実現するかの理解を深める内容となります。   

導入の意思決定に必要な「財務分析(導入コストと投資回収)」 から、実務的な「導入ロードマップ(業務フロー再構築)」、最大の障壁である「セキュリティ対策」、そして必須となる「法的要件と医師の研修」 に至るまで、経営者が直面する全ての課題を網羅的に解説し、具体的な「次の一手」をご提示します。

第1部
オンライン診療の戦略的価値と経営改善効果

オンライン診療の戦略的価値と経営改善効果

このパートでは、オンライン診療が単なる「流行」ではなく、病院経営の根幹に関わる「不可避な戦略」であることをお伝えします。低い診療報酬という課題を直視しつつ、それを上回る「業務効率化」と「患者アクセスの改善」という経営的価値を明らかにして行きたいと思います。

1-1. なぜ今、オンライン診療が経営戦略の必須要素なのか?

現代の病院経営において、オンラインでの情報発信と患者獲得を行うための手法「Webマーケティング」は避けて通れない重要な戦略となります 。スマートフォンの普及により、患者の受療行動は根本的に変化しました。身体に不調を感じた患者はまず「地域名 + 診療科目」や「症状 + 診療科目」といったキーワードで検索し、表示された複数のクリニックのホームページを比較検討します 。

このデジタルシフトにおいて、オンライン診療の導入は、このデジタル上の探索行動(検索)に対する「受け皿」として機能する。Webサイトの最適化  やSEO(検索エンジン最適化)・AI検索・MEO(マップエンジン最適化)対策によって潜在患者の認知を獲得しても、そこからシームレスな受診(オンライン予約・診療)を提供できなければ、獲得した患者を他院に奪われることになります。

オンライン診療の導入は、単なる「新サービスの追加」ではありません。これは、病院の「商圏」を物理的な立地(例:半径5km)から、デジタル上の認知が及ぶ範囲(全国)へと拡大する「ビジネスモデル変革」の第一歩となります。AIやビッグデータ解析の導入、遠隔診療の普及は、未来のクリニック経営において不可逆的な流れとなります。この変化に柔軟かつ迅速に対応することこそが、病院の持続的経営に求められている変化となり得ます。   

1-2. 業務効率化による経営インパクト

オンライン診療は、デジタル技術の活用(DX)により、現場の業務プロセスを変革し、収益や労務の課題を解決する可能性を大いに秘めています 。   

第一に、人工知能(AI)による医療資源の最適化が挙げられる。「安診ネット」(https://one.anshinnet.net/)のようなシステムは、バイタル情報からAIが患者の緊急度を赤・黄・緑で表示 。これにより、医療スタッフは緊急度の高い患者にリソースを集中でき、業務効率化と重症化リスクの抑制を同時に行うことが可能になります 。これは医療現場の「労務の課題解決」にも直結します。   

第二に、予約・診療・会計のプロセス一元管理となります。「CLINICSカルテ」(https://clinics-cloud.com/karte)のようなクラウド型電子カルテは、レセプトソフト「ORCA」を内包し、予約から対面・オンライン診療、会計までをワンストップで管理が可能になります 。これにより、従来は分断されていた業務がシームレスに繋がり、医師および事務スタッフの手間を大幅に削減することができます。   

第三に、ハイブリッド型ワークフローの構築である。Zoomのようなプラットフォームは、単なる遠隔診療(ビデオ通話)機能を超え、病院全体の管理・ビジネスニーズに対応する 。例えば、「バーチャル受付(キオスクモード)」による受付の無人化や、「クラウド電話(Zoom Phone)」によるスタッフのモビリティ強化(院外からの内線対応など)が可能になります 。   

これらの業務効率化は、経営改善における「守り」の側面であり、次項で述べる「収益性の低さ」という「攻め」の課題を相殺するための重要な鍵となります。人工知能(AI)や一元管理によって削減できたスタッフの工数(人件費)が、オンライン診療による減収分を上回れば、経営的にはプラスに転じる可能性は期待できます。  

1-3. 経営者が直視すべき「収益性」の課題

経営者が導入を躊躇する最大の要因は、対面診療との診療報酬の格差となります。2022(令和4)年度の診療報酬改定において、オンライン診療の初診料は、対面診療の場合の「87%」に設定されています 。   

この収益性の低さは、オンライン診療が普及しない主要な障壁として認識されています。野村総合研究所の調査によれば、普及しない理由の筆頭は「事業性が低い」ことであり、具体的には「保険点数が低い(認められていない)」ことが挙げられています。   

この事実は、経営者に深刻なジレンマをもたらしていることでしょう。既存の対面患者がオンライン診療に移行する(チャネルシフト)と、1人あたり13%の医業収益が「失われる」可能性があるからです。

このジレンマの解決策こそが、今回の記事の核心となります。オンライン診療による一時的な「減収(13%)」を許容してでも導入すべき理由は、以下の3点に集約されます。

1.コスト削減(効率化)

1.コスト削減(効率化)

上記 1-2 で述べた業務効率化  による人件費削減が、減収分を上回る。   

2.新規患者獲得(市場拡大)

これまで来院しなかった「新規患者」(遠方、多忙なビジネス層など)を獲得できる(純増)。

2.新規患者獲得(市場拡大)
なぜ今、LTVの向上が重要視されているのか?

3.患者維持(LTV向上)

患者満足度(院内感染リスク回避、待ち時間ゼロ) と利便性が向上し、リピート率(患者の生涯価値)が向上する 。   


本レポートは、この3つの価値を最大化するための「実行方法」を具体的に提示していきたいと思います。

第2
導入意思決定のための財務分析:コストと投資回収(ROI)

導入意思決定のための財務分析:コストと投資回収(ROI)

第2のパートでは、導入の意思決定に不可欠な「費用」と「回収期間」を具体的に分析をします。特に、システムの選択が経営戦略(高機能・高コスト vs 低機能・低コスト)に直結することをご確認ください。

2-1. 導入コストの全解剖(初期・運用)

オンライン診療の導入コストは、「初期費用(システム導入費)」と「運用費用(システム維持・管理費、マーケティング活動費用、スタッフの教育費用)」に分類されます 。   

厚生労働省のデータによれば、オンライン診療システム導入にかかる初期費用の「平均値」は約78万円ですが、「中央値」は約27.5万円となります。この大きな乖離は、導入するシステムの機能や戦略によって、コストが桁違いに変わることを示しています。経営者はこの「価格の幅」の意味を理解し、自院の戦略に合ったシステムを選定することが重要になります。   

高コスト・高機能モデル(EMR連携型)

これは、院内の業務効率化を最大化するための「エンタープライズ投資」となります。富士通が提供する「オンライン診療ソリューション」は、既存の電子カルテシステムとの密な連携を特徴とし、価格は150万円からとなっています。2025年度末までに850施設への提供を目標としており 、中~大規模病院における本格的なDX推進を志向するモデルとなります。 

低コスト・迅速導入モデル(SaaS型)

これは、初期投資を抑え、まず患者接点(集患)を確保することを目的とした投資です。「LINEドクター」は、その代表例であり、初期費用と月額固定費が無料で、発生するのは決済金額の3.5%のサービス利用料のみとなりました。(2025年6月10日サービス終了)。現在では、HELPOドクターと言うオンライン診療サービスも普及し始め、患者側の利用障壁が低くなりつつあります。   

経営者は「平均78万円」 という数字に惑わされないようにすることが重要です。選択肢は「どのような高額投資で院内業務の完全DXを目指すのか?、また、低額投資でまずWebマーケティングと患者獲得を開始するか?という明確な戦略的二択となります。  

2-2. 投資回収(ROI)シミュレーション

投資回収(ROI)期間は、診療科目や導入戦略によって大きく異なりますが、一つの目安として「3ヶ月~6ヶ月程度として定めます 。   

この「3~6ヶ月」という期間は、 この試算に基づいています。例えば、メディカルダイエット(自費診療)を例に挙げると、以下のようになります。

  • 前提
    初期費用 80万円、月額費用 8万円、診療単価(マンジャロ1ヶ月分) 約3万円、月間オンライン診療件数 50件 。   
  • 試算
    月間売上(3万円 × 50件)は150万円。粗利益率を70%と仮定すると月間粗利益は105万円となる。ここから月額費用や配送費、人件費等の経費を差し引いても、初期費用80万円は数ヶ月で回収可能となる計算。   

この試算が示す通り、最も早くROIを達成できるのは、保険診療(診療報酬87%) ではなく、「診療単価の高い自費診療(ダイエット、AGA、緊急避妊薬処方等)」となります。   

保険診療中心の病院は、ROIの試算を「新規患者の獲得数(売上増)」と「業務効率化による人件費削減(コスト減)」の2軸で慎重に行う必要があります。この「見えざるROI」も重要です。予約・問診・決済の自動化により事務作業を20~30%削減できた場合、仮に月間人件費が50万円のクリニックで業務負担を20%削減できれば、年間で約120万円のコスト削減効果が期待できます 。   

回収期間を短縮する鍵は「開業時・早期」の導入が重要となります 。理由は、(1) スタッフ教育が「既存フローの変更」ではなく「初期設定」となり教育コストが低い。(2) 「オンライン対応」を武器に先行して集患(ブランディング)できる。この2点になります。   

提案テーブル1
主要オンライン診療システム 導入戦略・コスト比較

システム名(例)戦略タイプ初期費用(目安)運用費用(目安)電子カルテ連携主要機能
富士通ソリューション 高機能・統合型150万円~別途保守費◎(前提)電子カルテ連携、高セキュリティ
CLINICS バランス型要問合せ月額費+決済手数料◯(CLINICSカルテ)予約・対面/オンライン診療・決済の一元管理
安診ネット 率化・特化型要問合せ要問合せ△(要確認)AIトリアージ、バイタル連携、業務効率化
HELPOドクター低コスト・接点型0円660円
別途クリニックの診療費
△(要確認)
△(要確認)ビデオ通話、予約、決済(LINE上で完結)

第3部
【実務編】導入プロセスの完全ロードマップ

【実務編】導入プロセスの完全ロードマップ

第3のパートでは、導入を「決定」した後、何を「実行」すべきかを、(1)システム、(2)業務フロー、(3)法務・研修の3ステップで解説します。

【ステップ1】システム選定とインフラ構築

システム選定における最優先事項の一つは、「電子カルテ(EMR)との連携」です。導入障壁として「電子カルテ/地域医療連携システムなどとの連携が不十分」であることは、以前から指摘されている通りです。富士通のようなEMR連携型(高コスト)か、あるいは連携せずとも運用が回る体制(例:低コストシステム  + スタッフによる手入力)かを選択する必要もあります。   

ここで注意が必要です。このような低コストシステムを選定した場合、初期費用は抑えられるが、診療情報をEMRに手入力する作業が発生し、予約の一元管理も別途検討が必要となるケースはあります。この「手作業による連携コスト」がシステムやサービス同士のデジタル連携(CSVなど)による自動化が行えるかを含め、厳密に評価する必要があります。   

また、予約管理の部分では、患者が「対面診療」と「オンライン診療」のどちらを選んでも迷うことがなく、スタッフが予約台帳を二重管理せずに済む、「予約システムの一元化」 が実務上必須となります。   

【ステップ2】院内業務フローの再構築

オンライン診療の導入は、既存の業務フローの根本的な見直しが必要な場合もあります。   

  • 【受付】オンライン資格確認フロー
    従来の受付フロー(被保険者証の受領、問診票の手渡し)は使用が困難です。オンライン診療用の新たな受付フローとして、(1) 「Web問診」の導入、(2) 「オンライン資格確認」の仕組み(マイナ保険証の写真アップロード等)、(3) 厚生労働省のガイドライン に基づく「本人確認(少なくとも一種類以上の顔写真付きの身分証明書を含む、二種類以上の身分証明書)」のプロセスを確立する必要があります。
  • 【診療】ハイブリッド・ワークフロー
    対面診療とオンライン診療の「使い分け」の院内ルールを明確に定義する必要があります。(例:初診は原則対面、慢性疾患で病状が安定している患者はオンラインを許可など)。
  • 【処方・会計】電子処方箋と既存フローの併用
    会計はシステムによるオンライン決済が主流となりますが、課題点は処方箋となります。
    電子処方箋が理想ですが、近隣の薬局側が電子処方箋システムに未対応の場合もあります。その場合、病院は「紙の処方箋」を患者に郵送するか、患者が希望する薬局に「FAX送信」を行い薬局は、紙の処方箋で調剤した後、その調剤結果を電子処方箋管理サービスに登録するなどの確認が必要です。これにより将来的に患者が他の電子処方箋対応機関を受診した際に、リアルタイムの薬剤情報が活用可能となります 。
    また、電子処方箋システムの「重複投薬等チェック」機能は、患者の同意がない場合は機能が制限されます 上記【受付】のフロー に、「薬剤情報の閲覧に関する同意取得」のプロセスを組み込むことなどが必要になります。

【ステップ3】法的要件の遵守と必須研修の実施

オンライン診療の提供は、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に準拠しなければなりません 。   

日本医師会は、オンライン診療が「利便性のみを重視」して進められることに懸念を示しており、「安全性の担保」を最重要視しています 。これは、かかりつけ医が「対面診療と適切に組み合わせ、補完的に使う」 ことが求められることを意味しております。   

2025年に向けては、これまで解釈の運用によって実施されてきたオンライン診療の「法制上の位置付けの明確化」が進められています。特に注目すべきは、地方の人口減少対策として、全国に約2万4000局ある郵便局のネットワークを活用した「特定オンライン診療受診施設」の実証事業であり、今後の法改正動向を注視しながら導入を検討する必要もあります。

【必須】厚生労働省指定「オンライン診療研修」の受講

病院・クリニック経営者が実行すべき、最も重要な実務が「医師の研修受講」となります。

  • 義務化
    厚生労働省は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」において、医師は「研修を受講することが義務とされている。」とされています。
  • 研修内容
    研修は無料のe-learning形式で提供される。基本研修は「オンライン診療の提供に当たって遵守すべき事項(約40分)」、「オンライン診療の提供体制(約15分)」、「オンライン診療とセキュリティ(約35分)」、「実臨床におけるオンライン診療の事例(約30分)」 などで構成されます。   
  • 追加研修
    緊急避妊薬の処方を(産婦人科医以外が)行う場合や、へき地で「D to P with N」(後述)を行う場合は、それぞれ追加の研修プログラム受講も必須となります。

病院・クリニックの経営者は、システム導入と同時に、全診療担当医師の「研修受講スケジュール」を確保する必要があります。研修未了の医師はオンライン診療を実施ですることができないので注意が必要です。

提案テーブル2
厚生労働省指定 オンライン診療研修プログラム概要(医師向け)

研修プログラム名対象医師(例)主要科目 所要時間(目安)修了要件
1.オンライン診療を行う医師向けの研修(基本)オンライン診療を実施する全医師遵守事項、提供体制、セキュリティ、実臨床事例 など約2.5時間(合計)e-learning受講、演習問題全問正解
2.緊急避妊薬の処方に関する研修産婦人科医以外で緊急避妊薬の処方を行う医師経口避妊薬(OC)全般、緊急避妊(EC)約1.5時間(合計)同上
3. へき地における「D to P with N」に関する研修へき地で看護師等と連携して実施する医師へき地におけるオンライン診療(看護師等連携)約40分同上
4. 慢性頭痛のオンライン診療に係る適切な研修慢性頭痛をオンラインで診療する医師慢性頭痛概論、二次性頭痛の見極め、片頭痛治療 など(日本頭痛学会e-learning)別途規定別途規定

第4部
最大のリスク「セキュリティ」の徹底対策

最大のリスク「セキュリティ」の徹底対策

オンライン診療の普及障壁として「医療過誤・緊急時の対応が不安」、「医療情報のセキュリティ(情報漏洩・ウイルス感染)が不十分」といった懸念が根強く存在します。第4のパートでは、これらのリスクを直視し、最新のガイドラインに基づいた防御策について提示いたします。

4-1. 医療情報システム「3省2ガイドライン(第6.0版)」への準拠

病院、クリニックが遵守すべきセキュリティ基準は、厚生労働省・経済産業省・総務省の3省が連携して策定したガイドラインであり、その最新版が、令和5年5月に策定された厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」となります。   

この第6.0版への改定は、まさに「オンライン資格確認の原則義務化」と、それに伴う「クラウドサービスの利用」拡大といった、オンライン診療の前提となる技術環境の変化に対応するために制定されています。

経営者の責務は、この最新ガイドライン に基づき、自院のセキュリティ体制を点検し、内部規定や外部委託先(オンライン診療システムベンダー)の選定・監督基準を見直すことも必要になります。オンライン診療の導入は、単なる「システム導入」ではなく、「セキュリティ監査」と表裏一体となる点をご注意ください。選定するシステムベンダーが、(1) 通信の暗号化、(2) 厳格な認証機能(多要素認証など)、(3) 適切なデータ保存・ログ管理を行っているか、(B_S7) の基準に沿って厳格に評価することが、経営者の法的・倫理的責任となります。   

4-2. オンライン診療特有のリスクと防御策

オンライン診療における最大のリスク源は、病院が管理できない「患者側の端末(スマートフォン、PC)」が存在します。ガイドラインが指摘する通り、患者側の端末を通じた医療情報システムへの不正アクセスや、患者のデバイスがマルウェアに感染しているリスクを考慮する必要があります。   

このリスクに対する防御の原則は、「システム分離」である 。ガイドラインは、患者側端末を医療情報システム(電子カルテ等)と「明確に分離すること」を原則としています。   

この原則に基づき、経営者(および導入担当者)が講じるべき実務上の対策は以下の通りとなります。

  1. システム選定の徹底
    安易な汎用ツール(一般のビデオ通話アプリ)の使用は懸念するセキュリティ事故に直結す可能性が高くなります。患者端末と院内EMRの間に立ち、安全な「中継サーバー」として機能する、医療専用のシステムを選定することなどの対策が必要となります。  
  2. 本人確認の厳格化
    診療開始時、患者に「少なくとも一種類以上の顔写真付きの身分証明書を含む、二種類以上の身分証明書」を提示してもらい、なりすましを防ぎ、本人性を担保する必要があります 。   
  3. 患者への明確な指示
    患者側に対してもセキュリティ対策を求める必要生。(a) 診療中は第三者を参加させないこと、(b) 医師の指示なくチャット機能やファイル(特に外部リンク)を送付しないこと、を明確に指導する必要があります。
  4. 院内スタッフ教育の徹底
    技術的な防御だけでなく、人的な脆弱性への対応も不可欠です。フィッシング詐欺や不審なメールに対する注意喚起、安全なネットワーク(Wi-Fi)の利用、使用デバイスのOS・ソフトウェアの最新化、ウイルス対策ソフトの導入といったセキュリティ教育を定期的に実施する必要が生じます。

第5部
導入後の障壁と「患者獲得」戦略

導入後の障壁と「患者獲得」戦略

第5のパートでは、システム導入後に直面する「使われない」という障壁を乗り越え、第1部で設定した「新規患者獲得」を実現するためのマーケティング戦略を解説します。

5-1. 導入障壁の克服

導入後の障壁として挙げられるのが、「患者側のITリテラシー格差」ではないでしょうか 。特に高齢者やデジタル機器の操作が苦手な層にとって、オンライン診療の利用は難しい場合があります 。   

しかし、この見解には反証も存在します。総務省「令和4年版情報通信白書」を引用し、高齢者のスマートフォン利用率は「高い」と指摘しています。(2025年5月19日更新情報)。一見矛盾する情報は、重要な示唆を与えていると言えます。

真の障壁は「高齢者だから使えない」という偏見もあります。実際には(1) 「遠隔診療システムが煩雑で使いづらい」、(2) 「患者によっては診察に足る十分な通信環境が整わない」といった、システム側・インフラ側の問題である可能性があります。この課題をクリアするために使い慣れたユーザーインターフェースで直感的でシンプルな操作性のシステムを採用することは、この障壁を克服する鍵となります。   

5-2. 新規患者獲得のためのWebマーケティング戦略

オンライン診療とWebマーケティングは、経営戦略上、大変重要な2つの柱となります。患者は「Web検索」から病院を選定することが大半を占めます。オンライン診療システムを導入しても、それがWeb上で「発見」されなければ、新規患者は獲得できません。   

病院が実施すべき具体的なオンライン施策は、以下の5つに集約される 。   

  1. ホームページ(Webサイト)の開設・最適化
    オンライン診療の予約導線をわかりやすく設置します。
  2. Web広告(Googleリスティング広告)の出稿
    「地域名+診療科目」などで検索した、受診意欲の高い潜在患者に直接アピールする広告配信も検討が必要です。   
  3. SNS(Facebook, Instagram, LINEなど)やブログでの情報発信
    疾患啓発や院内の雰囲気(医療接遇)を発信し、信頼を獲得することも定期的に行います。
  4. SEO・MEO対策
    Google検索やGoogleマップで上位に表示させ、患者の目(検索結果)に触れる機会を増やす取り組みも重要です。 
  5. 医療ポータルサイトへの登録
    専門のポータルサイトに登録し、認知経路を増やすことも重要となります。

これらの施策を実行する上で最も重要なのは、「ターゲット層の明確化」となります 。例えば、「多忙なビジネスパーソン」「子育て中で外出が難しい親」「通院が困難な慢性疾患患者」など、メインターゲット層を明確にし、その層のニーズ(例:待ち時間ゼロ、院内感染リスク回避)に訴求することが、集患戦略の基本となります。   

 また、「マーケティング活動費用」は、「コスト」ではなく「投資」と考えることが重要です。ROI試算は「月間50件」の利用が前提であり、この50件を生み出すのがマーケティング活動と直結します。オンライン診療の導入予算とWebマーケティングの予算は、一体で確保する必要があります。   

5-3.患者満足度とリピート率の向上施策

 オンライン診療が患者に提供する直接的な価値は、「二次感染(院内感染)リスクの軽減」、「通院負担(待ち時間・移動時間)の軽減」、そして「継続的な健康管理による重症化予防・早期治療」 となります。これらの価値提供が、ターゲットの患者層より「高評価の口コミ」に繋がり、更なる集患効果(Webマーケティングの好循環)を作り出します。   

 オンライン診療の導入は新規患者の獲得(集患)で終わらせず、患者からの信頼を獲得し、満足度を上げる取り組みを継続することが、病院・クリニック経営の存続に不可欠な取り組みとなります 。   

この「新規患者獲得」の可能性を裏付ける成功事例があります。小児科医不足の地域で行われた、看護師+デバイス+遠隔小児科医による「オンライン診療モデル」の実証実験では、利用者のうち60.4%が「過去に(自宅からの)オンライン診療を受けたことがない」層でした 。   

この事例は、第1部で提示した「収益性87%」 という経営課題に対する強力な回答となります。オンライン診療は、既存の対面患者(100%の収益)を87%の収益にする(カニバリゼーション)という側面だけでなく、これまで受診機会のなかった0%の層を「87%の新規顧客」として獲得(市場拡大)する、極めて強力なポテンシャルを秘めていることを語っております 。 

第6部
【未来展望】オンライン診療の高度活用と地域医療への貢献

【未来展望】オンライン診療の高度活用と地域医療への貢献

第6のパートでは、導入後の次のステップとして、オンライン診療を「在宅医療」や「地域連携」へと発展させ、病院の機能的価値を高める未来戦略を探りたいと思います。

6-1.在宅医療・へき地医療への展開

オンライン診療は、在宅医療やへき地医療において、その真価をさらに高めます。24時間体制での対応が求められる在宅医療において、オンライン診療は、電話相談、訪問診療、訪問看護を補完し、患者の容態安定化と重症化予防に貢献するとされます 。   

特にへき地や在宅医療の現場で期待されるのが、「D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)」モデルである 。これは、患者(P)の元にいる「看護師等(N)」が、医師(D)の指示を受け、診療の補助を行う形態です 。   

具体的には、医師がオンラインで診察する際、看護師が聴診器を当ててその音を医師に送信したり、医師の指示に基づき、予測された範囲内での点滴や注射、あるいは追加的な検査(血液検査や尿検査)を行ったりすることが想定されています。

この「D to P with N」モデルは、医師不足  に悩む地域医療の救世主となり得ます。看護師の専門性を最大限に活用し、医師は遠隔から高度な診断・指示に集中するという、「医療資源の最適配分」を実現するモデルとなります。そのための専用研修が設けられたことは、国策としてこのモデルを推進する強い意志の表れとなります。

6-2.専門領域特化と病院機能の分化

オンライン診療は、自院の強みである専門領域を、物理的な商圏を超えて提供する手段となります。「遠隔小児科」のように、自院の専門性をオンラインで提供することで、小児科医不足の地域(商圏外)にも高度な医療価値を提供します。   

これは、「地域医療連携」 の在り方をも変革します。地域医療連携とは、地域の医療機関がそれぞれの機能や役割(かかりつけ医、急性期病院、回復期病院など)を分担し、患者が継続的な医療を受けられるようにする仕組みが必要です。   

オンライン診療は、自院を「地域医療支援病院」 として再定義する強力なツールとなります。従来、「地域医療支援病院」の機能は、紹介患者への医療提供や、MRIやCTといった「高額医療機器の共同利用」が中心でした。 

しかし、オンライン診療を活用すれば、「物理的な機器」の共同利用だけでなく、「専門医の知識・経験の共同利用」という、より高度なハブ機能を提供できるようになります。

例えば、地域のかかりつけ医  からオンラインで専門診療(例:小児科 )のコンサルテーションを受ける。あるいは、かかりつけ医(または訪問看護師)が「D to P with N」 の「N」となり、自院の専門医が「D」として共同診療を行う。これにより、自院は地域医療における確固たる中核的地位を築くことが可能となります。

最終章
経営改善に向けた院長の「次の一手」

経営改善に向けた院長の「次の一手」

オンライン診療の導入は、もはや「導入するか否か」の議論ではなく、「いかに戦略的に導入し、経営改善に繋げるか」の実装フェーズにあると言えます 。   

これまであった「低い収益性」という課題は、短期的な視点に過ぎない課題感となります。今回の内容が示した通り、その解は「業務効率化によるコスト構造の変革」と「Webマーケティングによる新規患者獲得(商圏の拡大)」にあります。   

病院・クリニック経営者が今、直ちに着手すべき「次の一手」は、以下の7点となります。

  1. プロジェクトチームの任命
    院内のDXを牽引するプロジェクトマネージャー(事務長、医師、看護師長等)を任命。
  2. 戦略の決定
    自院の戦略を決定する。「高機能・統合型(EMR連携)」 で業務効率化を徹底するか、「低コスト・接点型(SaaS)」 でまず患者獲得を優先するかの決定。   
  3. 財務計画(予算確保)
    戦略に基づき、初期・運用コスト  および、「Webマーケティング費用」 を含む予算の算出と確保。   
  4. 【最優先】医師の研修受講
    全担当医師に対し「厚生労働省指定研修」の受講を(業務として)命じ、受講計画を策定する。
  5. セキュリティ監査の実施
    「ガイドライン第6.0版」に基づき、現在のセキュリティ体制の脆弱性診断と、導入予定ベンダーの適格性評価を実施。
  6. 業務フローの設計
    受付、 本人確認の処方箋フローなど、既存の業務をデジタル前提で再設計を行う。   
  7. マーケティングの同時開始
    Webマーケティング施策(まずはWebサイト改修とMEO対策)を、システム導入と「同時」に開始できるように計画。

オンライン診療は、導入がゴールではありません。それは、変化する医療環境  の中で病院が持続的に成長し、地域医療に貢献し続けるための、強力な「経営ツール」として早急な対策が必要となります。

引用サイト